加齢によるお口の変化2
いけだ歯科矯正歯科医院の院長 池田一彦です。
前回からの続きです。
加齢が原因で起きるお口の中の変化には次のようなものがありました。
・歯肉の退縮
・唾液の減少
・味覚の低下
・前歯が出っ歯になる
最後の前歯が出てくるお話をします。
歯は骨によって固定されています。しかし、完全に骨と一体になっているわけではなく、間に歯根膜という結合組織的な軟かい組織が介在しています。
これは、根の表面にある薄い膜状の物で、いわば歯のクッションのようなものです。
これがあることで、歯に強い力が加わっても衝撃を吸収し歯が破折するのを防いだり、歯の痛みを感じたり、また矯正する時に歯を動かす事ができたりします。
咬む力が加わると、歯はこのクッションのために上下に約0.5mm程度動きます。
食事をする時には、全ての歯が同時に沈むわけではなくそれぞれの歯が別々の動きをすることになります。この時、歯と歯が接触している接触面は擦れていきます。
石のように硬い歯の表面はエナメル質といい、ハイドロキシアパタイトという結晶からできています。いくらか硬くても、毎日の食事を繰り返ししていると次第に磨り減っていきます。
歯が磨り減ると、歯の幅は段々と小さくなっていきます。歯が小さくなって歯が移動しないとすると、当然歯と歯の間に隙間ができてくるはずです。しかし、隙間は実際にはできません。歯は奥歯が段々と前に動くために隙間はできないのです。
下の図のような事が起きていくのです。
問題はその動き方ですが、矯正で動かす時は平行に移動するように動かせるのですが、自然に動く時は平行移動ではなく、傾いて頭の部分だけが倒れ込むように動いていきます。これを傾斜移動といいますが、前の歯が傾斜すると後もさらに傾斜しそのまた後ろもさらに傾斜します。つまり、奥にいくに従って傾斜量は増えていきます。
また、隙間があかないという事は毎日の食事でさらに磨り減っていくことになります。
こうして傾斜量は年齢とともに増加します。
そして、傾斜した歯で上下の咬む力がかかる時、上下方向にかかった力は水平方向の分力を生じさせて、奥歯をまえの方向に倒れさせるように力が架かり始めます。こうして、高齢になると加速度的に前の方向への力が急増して、前歯がでてきます。
押された力は次は唇で押し返されるために、結果として『ある程度の出っ歯が進んだ後』は、次の段階として、『歯が次第に重なってくる』のです。
加齢による生理的な現象なので防ぎようがないといえばないのですが、歯を抜いてブリッジが入っていたり、被せ物を連結する事によって傾斜移動は多少すくなくはなります。