上顎洞底挙上術1
ちなみに今回購入したCAS-KIDという商品は、世界で最も安全に上顎洞底挙上術のできるキットということで買ってみることにしました。専門的な言葉ですので、わかりやすく解説します。
上顎の骨のすぐ上には鼻の空洞が有り、インプラントを入れるだけの十分な厚みが確保されない事もしばしばあります。その場合は、鼻の空洞を穿孔させて骨の元になる充填材料を入れて鼻の中(副鼻腔の中)に骨を造ります。これを上顎洞底挙上術(=Sinus Floor Elevation・簡単にサイナスリフト)といいます。その後そこに骨ができてインプラントをいれることになります。
この時、最も鍵となる施術は鼻の空洞の粘膜を破らないで骨から剥がす事です。破れてしまうと再手術となる事も多く患者様にも術者にとってもそれは負担です。
以前からタイトに貼り付いた粘膜を安全に骨からはがすために色々なドリル等が開発されています。骨は削れるけどその裏側に貼り付いた粘膜は破らないものです。もう少し簡単に言うと生卵の外側の硬い殻は削れるけれども、殻の内裏に貼り付いた薄い膜は破らないで剥がすのです。(実は、上顎洞底挙上術・サイナスリフトの練習でよく生卵を使います)
従来の方法はドリルの形を工夫して丸くしたものや、ヤスリを微小に振動させて骨だけを削っていく方法(一般にピエゾサージェリーと言う方法)等がありました。
今回のあたらしい方法は、水圧で剥離する方法です。まず穿孔まではドリルで穴を開けます。
このドリルがまた良くできていて、通常はドリルで削った切削片は溝に沿って外側に排出されます。目づまりを防ぐためだとは思うのですが、このドリルは、切削片を前方つまりドリルの奥側に排出します。ドリルの尖端は直接粘膜に当たりにくくなっています。実際にドリルを回しながら手のひらの上で回転させても、手の皮は傷つきません。でも、骨は削れていきます。
穴が開いたら水圧をかけます。一箇所に圧を集中させずに水圧の均等な力で粘膜を剥離していきます。しかも水圧を逆に減圧吸引した場合、粘膜を穿孔させると空気が逆流してきますし、粘膜が上手く剥離されていれば空気は入らずに血液を含んだ赤い水が吸引されてきて結果がとてもわかりやすいです。この様子は、今回の学会でもライブで手術の中継がありよくわかりました。
この上顎洞底挙上術は月に一回程度はしていて、今まで数十回してきましたが、とても気を使います。今回のキットでは、もう少し楽にできるかな結構期待しております。実際にはするとどんな症例になるのかは、また後日ゆっくりと書かせていただきます。