歯の外傷時の応急処置
人が歯を失う原因でもっとも多いものは何でしょうか?第一位は歯周病と言われています。最近は歯磨き粉などのテレビCM等でそのデータを目にする機会があった方もいらっしゃることと思います。ドラッグストアのデンタルケア商品コーナーを覗いてみれば、歯周病予防、治療を謳う商品が数多く陳列されており、年々歯周病に対する世間の関心が高まってきていることを伺わせます。しかし、この「歯周病が歯を失う原因の第一位」というデータは老若男女全ての方の平均を表したものであり、年齢別に見ていくとその順位にも違いが見えてきます。年齢が上がるにつれ、歯周病の影響が大きそうなことはなんとなく想像がつくことと思いますが、では若年層ではどうでしょうか?25歳までの若年層では、歯の喪失原因の第一位は「外傷、矯正、その他」が66.8%を占めており、それに継ぐ「虫歯(30.9%)」「歯周病(2.3%)」とは大きく水をあけています。例えば55~64歳のデータは「外傷、矯正、その他(16.6)」「虫歯(28.3)」「歯周病(55.1%)」となっており、その比率は全く異なっていることが分かります。つまり若年層においては、全体の傾向に反して歯周病よりも事故等で歯を失うリスクの方が高いということが分かります。小学校での歯・口腔領域の外傷割合のデータを見ると、「歯牙破折」「亜脱臼」が全体の70%を占め、ついで「脱臼」が25%と続きます。大人のかたで事故等によって完全脱臼となるのは稀ですが、これは歯を支える骨が子供に比べて成熟し強固になっており、歯に加わった衝撃を逃がさないので、力の集中した根や歯牙が折れてしまうことが多いためです。子供の場合は、骨が未成熟で柔軟であるため、歯が折れる前に丸ごと脱臼してしまうことがあります。「遊んでいたら、勢いあまって友達の頭にガツンと衝突。気がついたら血まみれの前歯が地面に転がっていて、口の中も血だらけ」
下の写真は交通事故により折れた歯と抜けた歯です。
こんな状態になってしまうと、本人はもとより、保護者の方も見た目の惨状にパニック、となっても致し方ない事かも知れません。しかし、こんなときこそ適切な対処法を知っているかどうかが、歯を一本失うかどうかの分水嶺となります。
まず第一に「根の部分を決して触らずに拾い上げる」ことが肝要です。抜け落ちた歯がもとに戻した際に生着するための必須条件として、「根に残っている歯根膜細胞が生きている」ということが挙げられます。このため、根の部分を持ってしまうと歯根膜細胞にダメージを与えてしまう恐れがあるので、歯の頭を持つように気をつけてください。
第二に「汚れていても、決して水道水で洗わない」ことです。理由はやはり、歯根膜細胞を保護する為です。水道水では浸透圧の違いにより組織破壊を引き起こします。
第三に「なるべく早く抜けた歯をもって歯科医院を受診する」ことを心がけてください。この際、歯牙保存液に浸漬して持ち運べれば最良ですが、一般家庭で備えていることは稀と思いますので、牛乳で代用することが可能です。歯についている汚れが多い場合は、擦らずに牛乳で軽く流してください。多少の汚れは落とさず一緒に浸けても問題ありません。
もしも牛乳さえも無ければ、口の中に入れて乾燥しないようにもっときて下さい。
若いうちに歯を失ってしまうと、その後長い時間を欠損と付き合っていかなければなりません。少しでも歯を残せる可能性を高める為に、必要な処置を頭の隅に留めて置いて頂ければと思います。